ガンデン寺 ~タンカ祭り
2001年8月4日
CITSで申し込んだツアーでは、ラサにいる間のスケジュールが一応ある。しかし、私たち日本人旅行者は、第1回からそのスケジュールを無視して独自の行動に出た。ラサ市街から1km程郊外に行った所にあるガンデン寺で、年に1度のタンカ祭りがあるというので、別の旅行社で車をチャーターしてそちらに向かったのだ。
タンカというのは巨大な仏絵で、それを開帳するのが、そのタンカ祭りだ。年に1度の祭りだけあって、ガンデン寺に向かう山道では、無数のミニバスがあたかも蟻のように行列をなしていた。
ガンデン寺
ガンデン寺に到着したのは午前中だったが、メインイベントであるタンカの開帳があるのは正午あたりとのこと。まだ時間があるので、私たちは各々時間を潰すことになった。私を含めた男子3人は、本堂の正面にある山の頂上を目指すことにした。
1人が自分のペースでさっさと行ってしまう背中を見ながら、私ともう1人はわざわざ道の無い山肌を、ややおっかなびっくり、這うようにして登っていった。寺から頂上までの標高差はそれ程無いのだが、何せ標高4000メートルを超す山だ。肉体の疲労と同時に、空気の薄さとの闘いにもなった。
山頂で行われていた焚き火
山頂に着くと、何ヵ所かで焚き火が行われていて、ある人はチベット仏教独特の色とりどりの正方形の紙(ルンタ)をその焚き火の中に投げ入れ、ある人はその色紙を天空向けて撒き散らしている。チベットではよく見られる宗教的な行動だ。
そんな人々の行動や、山頂からの眺めを楽しんだ後、私は「もう少しここにいる」と言うもう1人を残して、単独で、今度は山道を選んで下山の途についた。
山を下りながらガンデン寺の本殿の方に目をやると、何やら様子が変わり始めている。
[タンカの開帳が始まった!]
タンカの開帳
寺の本殿正面の壁に、青い背景の見事な仏絵が広げられていく。それと同時に、人々の熱気も自然と高まっていく。その様子を間近で見ようと、私は下山の足を速めた。
本殿前は、チベット仏教信者らでびっしりと埋め尽くされていた。皆熱心に祈りを捧げている。
タンカは信心の無い者(当時の私もそうだった)にとっては、ただの絵画かもしれないが、これだけ大きなものが目の前に広げられるとやはり目を引き付けられる。しかし、私が心を引き付けられたのは主役のタンカよりもむしろ、タンカを前に祈りを捧げる人々の熱気だった。前日、ジョカンの前で熱心に祈りを捧げるチベット人の姿は既に見ていたが、年に1度の行事ということもあってか、ここで目の当たりにした熱気はそれを遥かに上回るものだった。
正面から見たタンカの開帳
そんな中、連れの日本人の1人が、やや慌てた様子だ。
「日本の本に載っているダライ・ラマ14世の写真を1人のチベット人に見せたら、急にありがたがって祈りを始めようとするんですよ。大勢の人に知られたら大変なことになりそうなので、ここはいったん逃げることにします」
―― そう、ダライ・ラマはチベット人が敬意を捧げる最高の対象であるにも関わらず、中国政府が彼を敵視していることからその写真を持つことは許されていない。チベット人は精神の自由を奪われているのである。
この騒動は中国によるチベット抑圧の一端を象徴する出来事であり、そして同時に、幾ら抑圧されてもそのほとばしりを押しとどめることは決してできない、チベット人の民族精神の強さをそこに見た気がした。
さて、見るべきものは見た。あとは帰るばかりなのだが、駐車場には似たようなバスがずらりと並んでいる。降りる時にナンバーを控えておくように言われていたが、それもそのはずだ。しかも、気が付けば皆、ばらばらになっている。全員集合できるのだろうか。
ようやく見つけ出したバスには、まだ1人しか戻っていない。他の連中がバスを見つけやすいようにと、私は一計を思いついた。バスの屋根に上って、皆を探すことにしたのだ。しかもこの時、私の顔には旅に出て以来、一度も剃っていない見事なひげが生えていた。バスを探す皆にとって、格好の目印になる。
思惑は見事に的中した。私のひげ面を目印に、他の連中が三々五々、戻ってきた。
全員戻ったところで、さて、ラサ市街に帰ろうか、と車内を見ると、来る時には見なかった日本人女性が2人いる。彼女たちは、私たちとは別のバックパッカーの溜まり場・ヤクホテルに泊まっているという。
「ヤクホテルの屋上から、ポタラ宮のいい眺めを見ることができますよ」
彼女たちの言葉に、私はその眺めを無性に見たくなってきた。ラサ市街に戻り、一度部屋に戻った後、私は早速、ヤクホテルに向かった。
ヤクホテルの屋上から見たポタラ宮
彼女たちの言葉に、嘘は無かった。ここはポタラ宮の全景を見るには絶好のポイントだ。チベットの伝統的な家屋が立ち並ぶ景色の向こうに、ポタラ宮がマルポリの丘の上に悠然と鎮座している。
<後日談>
Google Mapで現在の航空写真を見ると、上記のような古き好きチベットの伝統家屋の風景は、もはやラサ中心部では相当、無機質なビルディングに置き換わってしまっている様子である。
明日はスケジュール通り、ツアーに参加して、このポタラ宮を間近に見、そして内部を参観する予定だ。
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