先日告知したダライ・ラマ法王特使ケルサン・ギャルツェン氏の来日講演会を拝聴させていただいた。
あらためて、ケルサン氏のプロフィールを以下に掲載。
<ダライ・ラマ法王特使(使節員) ケルサン・ギャルツェン氏 経歴>
1951年 チベット・カム地方に生まれる
1963年 勉学のためスイスへ。ビジネスおよび事務管理を学んだ後、 1983年までスイスの大手銀行に幹部として勤務
1983年 インド・ダラムサラの中央チベット行政府の情報・国際関係省(外務省)において1年間のボランティアに従事
1985年 スイスにあるチベット事務所においてダライ・ラマ法王の代表者に任命
1992年 ダライ・ラマ法王の秘書官としてインド・ダラムサラにあるダライ・ラマ法王事務所に異動
1999年 ダライ・ラマ法王の駐欧州連合特使として再び欧州へ異動
2005年 スイス・ジュネーブにあるチベット事務所の代表となり2008年春まで兼任。現在は、ダライ・ラマ法王により任命されたチベット代表団特使のひとりとして中国政府との交渉にあたっている
<職責>
ダライ・ラマ法王の駐欧州特使として、チベット亡命政府と中華人民共和国との対話の促進を図ることを主要な職責とし、これを全うすべく、ダライ・ラマ法王の中道政策を欧州諸国に伝え広め、支援を得、チベット問題が平和的に解決するよう取り組んでいる。
ダライ・ラマ法王は、チベットの分離独立を求めているのではないことを明確に表明しておられ、中華人民共和国という枠組みのなかで名実を共にする自治権を得るべくご尽力されている。
これを伝えるための中国政府代表団との対話にあたり、ダライ・ラマ法王が委任された2名の高官特使のうちのひとりとして、2002年以降、中国指導部との8回の公式協議と1回の非公式協議に臨むとともにチベット交渉対策本部のメンバーも務めてきた。
ダライ・ラマ法王の特使という立場から、チベットに関する講演やインタビューにも精力的に取り組み、チベットの人々の悲劇に光をあてるべく尽力している。
会場は東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センター国際会議室。通訳機による同時通訳付きと、結構本格的である。
19時、ケルサン氏入場。TVニュースなどで既に登場しているのでご覧になった方もいらっしゃるかもしれないが、ケルサン氏は穏やかな表情をした、スーツの似合うジェントルマンだった。
講演が始まり、まず出たのがチベット問題に対する日本への期待感。
「日本はアジアで非常に重要な国です。日本は完全な民主主義、自由、開かれた情報、モラルのある国であり、大きな役割を果たすことができます」
それから、チベットの歴史において「最も闇の時代」である中共侵略以来の60年におけるチベットの問題を語った後、
「なぜ中国政府はこのような政策を用いているのか。それはチベットに対する理解が無いことに起因します。また、(中国とは違う)ユニークなチベットの文化・言語・地理、そしてアイデンティティが脅威になることを恐れているから、抑圧を続けているのです。現在の状況は中国人の利にもチベット人の利にもなっていません」
と語る。
そして、中国共産党政府との交渉に携わってきたケルサン氏ならではのお話――交渉の様子に話が及ぶ。
ケルサン氏は独立を求めず、両者にとってメリットがあり同意できる中道のアプローチの姿勢を以て交渉に当たる。
「亡命チベット人が帰省する、また亡命チベット人を家族に持つ本土のチベット人が亡命者と会うために海外に行くことを認めてください」
「ダライ・ラマ法王の写真を禁止することをやめてください」
「年に1度程度の対話の機会をもっと増やしてください」
「法王のチベット巡礼を許可してください」
などのことを要求するが、視点・立場の違いから中国共産党政府はそれらをことごとく拒否する。
そして、2008年11月。
前回の会談で「『真の自治』ということを言うのならそれがどんなものか見せてみろ」と言われたことから、代表団はチベット人にどのようなニーズがあるか、中国の憲法の枠内で実現できるか、を考慮した上で草案をまとめ、提出した。
しかし、中国側は
「草案のタイトルさえも容認できない。ダライにチベットのことを語る権利は無い!!」
と一蹴。
「ならなぜ提出しろと言ったのですか?」
と尋ねると、
「これはお前らの中国に対する態度のテストだ。お前らはテストに無残に落ちたのだ」
――何という傲慢。
――何という不誠実。
完全に上からの目線、自分たちが絶対であるという姿勢で語っている。
「中国政府は最初の交渉の時から変わっていない。政治的な意志も、勇気も、問題を解決する気持ちもありません」
と、ケルサン氏は批判する。
それでも、ケルサン氏は法王譲りの?オプティミズムでこう語る。
「私たちはこれからも中道のアプローチを支持します」
「常に非暴力の道で行くべきです」」
「北京政府からゴーサインが出ればいつでもチベット問題に関して話し合う用意があります」
「政府レベルにとどまらず、違ったレベルでのコンタクト――例えば、チベット人と中国人の学者・専門家との交流、若いチベット人と若い中国人が一堂を会するフォーラムの開催、中国の仏教徒とチベットの仏教徒の交流、中国語の出版物・Webサイトの発行――等の方法もあります。チベットの若者は、中国語・中国文化を学んで直接コンタクトできるようになってください。そして、チベットの視点を相手に分からせてください。」
「チベット人の声だけでは足りません。国際社会の協力が必要です。日本を訪問したのも、チベット問題がアジアの政治的問題であることを知ってほしかったからです」
講演終了後も、質疑応答で会場の熱気はやまない。
質疑応答の最後の方が語った。
「チベット問題を(中国の)国内問題として理解してはいけない。国際問題であり、人道問題である。日本人はもっとチベット問題に関心を持たなければならない」
この言葉で、講演会は締めくくられた。
実際に中国当局との交渉に挑んだケルサン氏の言葉には重みがあった。
ケルサン氏はアジアの有力国として日本に対して大きな期待を寄せている。如何に小さなことでもいい。その期待に応える努力を続けようではないか。
注:文中のケルサン氏の言葉は、通訳者の言葉をそのまま書いたものではありません。「自分だったらこう訳出する」という思いで書いた部分が少なからずあります。
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初めまして。先日私もこのケルサン氏の来日講演会を拝聴しました。
チベット問題はニュースや新聞報道くらいの知識しかなかったのですが、
過去にダライラマ法王の本を読んだり、「セブンイヤーズインチベット」を見たりして
興味があり、たまたま講演会を知って参加してみたのです。
ケルサン氏はとてもジェントルな方で、カリスマ性を感じましたね。
中国との交渉の舞台裏の話には、なんて自己中心的な国なんだ!?と
中国に対する怒りが沸きました・・・
まだまだ知らない事ばかりなので、少しつづ知って
何か役立っていければと思います。
こちらのHPでも色々情報得させて頂きたいと思いますので
よろしくお願いします~。
びこ様、初めまして。
現状積極的なチベットサポーターでない方がケルサン特使の講演会に来ていただいたことを非常に嬉しく思っております。これを機に、チベット問題についてじっくりと考えてくださいませ。
> チベット問題はニュースや新聞報道くらいの知識しかなかったのですが、
それでは殆ど知らないのと変わらないです。
http://www.tibethouse.jp/home.html
まずはこちらをじっくりとお読みするのをお勧めします。
> こちらのHPでも色々情報得させて頂きたいと思いますので
弊サイトのコンテンツでしたら、まずはこちらをどうぞ。
https://www.a-daichi.com/freetibet/problems/
少しずつでいいですから、知識と認識を深めて、自分になにができるかをお考え下さい。
では、今後とも宜しくお願い致します。