世界への旅(旅行記)
黒河 ~国境の街(1)
2002年9月13日
チチハルからハルビンに戻り、黒河に向かう列車に乗り込む前に、ハルビンの街を少し散策した。
ハルビンは日本の旭川市と有効都市提携を結んでいるが、街の雰囲気はむしろ札幌を思わせるものがある。何となく札幌の時計台にも似た雰囲気の白い建物が見えたかと思えば、赤い壁の洋風の教会が静かなたたずまいを見せてもいる。
冬には氷祭りがあるあたりも札幌と同じだが、残念ながら時期を全く外していた。
時間が来たので列車に乗り込み、黒河まで1泊の旅路に就いた。
2002年9月14日
以前の中国での到達最北端は瀋陽だったが、今回の旅行で、ハルビン、チチハルとその記録を塗り替えてきた。それらをもしのぐのが、ここ黒河。北緯50度の、ロシアとの国境に位置する街だ。
午前6時半、列車は黒河駅に到着した。その日の夕方の列車でハルビンに戻るつもりだったので、まずは切符売り場に向かった。しかし、ハルビン―黒河の切符同様、発売時間が限られているようである。
「今は売ってないよ」。私の様子を見ていたタクシーの運転手が声をかけてきた。
「列車の切符なら街中のホテルで予約できるよ。ついでにそこで休憩のために部屋を取ったらどうだい?」
言われてみれば、ハルビン行きの寝台列車は夕方の6時半発。10時間以上も外でぶらぶらするのは、疲れるし、間がもたないので得策ではない。
「よし、それじゃあそうしよう」
私は彼の言葉に従い、列車の切符も休憩場所も、ホテルでお世話になることにした。
黒河外資糧油大厦というホテルで列車の切符を予約し、少し休憩した私は早速、街の北にある黒龍江(アムール川)へ足を向けた。
中国とロシアの間を流れる黒龍江
黒龍江はその名の通り、省の名前の由来となっている河だ。既に中流であるにもかかわらず、川幅は300メートル程もある。その対面は既に、極東ロシアのブラゴベシチェンスク市だ。
中国側からでも、向こう岸の建物がはっきりと見える。
思えば、私は返還前の香港と広東省の深圳の間を歩いて渡った以外、これまで国境というものを目にしたことがなかった。しかもこれだけ広々とした国境地帯を見るとなると、初めてである。
日本という島国で生まれ育った者には、わずか300メートルの向こうに文化も、民族も違う人々が住んでいるとは、目の前で実際に見ているにもかかわらず、にわかには信じがたいことだった。
川べりの道を歩いていると、遊覧船の客寄せの放送が聞こえてきた。より間近にロシアの国土を見たいと思った私は、迷わずそれに乗り込んだ。しかし、目の前が外国とはいえ、ここはやはり中国。ある程度客が集まるまで、1時間ほど待たされた。
遊覧船は黒龍江を縦横に巡り、私たちにいろいろな角度からのロシア国境を楽しませてくれた。
気が付くと、ロシア側の河岸にほんの数十メートル程度の所まで近づいている。河辺の建物の様子がよく分かるばかりではなく、港での荷揚げや、軍人たちの鍛錬の様子、ブロンドの女性が犬を連れて散歩をしている姿までもはっきりと見える。そして、水際で遊んでいる子供たちが、無邪気に手を振って愛嬌を振りまいている。
そんな心の和む光景がある一方で、川面をロシアの巡視船が走るという、やや緊張感のある光景も目に飛び込んでくる。
ブラゴベシチェンスクの街とロシアの巡視船
そんな様子を尻目に、鳥たちだけは国境などお構い無しに、両国間を飛び交っている。彼らにしてみれば「たかだか河で、人間どもは何を騒いでいる」とでも言いたいところなのかもしれない。
少しだけ歩き疲れたし、昼食も食べたかったので、いったん中心街に戻ることにした。
黒河の街並みそのものは、一般的な中国の街とさして変わらない。違っているのは、あちこちにロシア語の看板が掛かっていることと、時折ロシア人が歩いていること。やはりここは、国境の街である。
ロシア商品街なる場所もあったが、さして賑わっている訳でもなく、店の服務員も中国人だ。私もここで、ロシアのチョコレートとマトリョーシカを土産に買いはしたが、この場所そのものには少々がっかりさせられた。
しかし、河は私を飽きさせない。水際に下りて、ロシアに続いている水に手をくぐらせたり、国境ゲート近くまで歩いて行ったりもしてみた。
夕刻、ハルビンに向かわねばならない時間近くになっても、私は夕日に染まる黒龍江を眺め、国境の街との別れを惜しんでいた。
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