バス憧れの大地へ

世界への旅(旅行記)

満洲(2002年)

チチハル ~渡り鳥の楽園

2002年9月13日

前日の午後のうちに、ハルビンから高速バスでチチハルへ移動。駅前の白鶴賓館でこの日の朝を迎えた。
チチハルは黒龍江省2番目の大都市らしいが、その名の意味するところはダフール語(この地域に住む民族の一・ダフール族の言葉)で“辺境”。街そのものは余りパッとしない。
しかし、何ゆえに氷祭り等のある冬ではなく、この時期に黒龍江省に来たのか ―― その理由こそが、ここチチハルにあった。

早朝から、ホテル前に停まっていたタクシーに乗り込んで、市街地から南東へ走ること約30分。到着した場所が、扎龍自然保護区だ。
ここには、北海道の釧路湿原にも似た湿原が広がっている。そして、やはり釧路湿原同様、鶴など多くの渡り鳥たちが営巣地としている地であり、夏から初秋がそのピーク期なのである。私が泊まったホテルの名前からも、それがチチハルを象徴するものであるということが窺える。
以前、釧路を訪れた際にその大自然の営みに魅了された私は、黒龍江省を訪れるならぜひこの時期の扎龍を見ておきたい、と思っていたのだ。
しかし、この“渡り鳥の楽園”も、既にピークの末期だったようだ。湿原の上を飛ぶ鶴や、水辺でくつろぐ鳥たちもいることはいるが、その数は決して多くはない。檻の中で飼育されている鳥の数の方が多いのではないか、と思える程度である。観光客の間近まで来て彼らを喜ばせている鶴も、どうやらここで飼育されているもののようだ。
[まあいいか。東北の大自然を楽しむことができたのだから]
自分にそう言い聞かせて帰りのタクシーに乗り込み、市内へと向かう。 鶴の親子
湿原でくつろぐ鶴の親子
しかし、ゲートを出てすぐ、私は運転手に「止めてくれ!」と頼んだ。
道の右側のわきに、鶴の親子の姿が見えたからだ。
その親子は、先程見た飼育されている鶴とは違い、脚に札を付けられていない。明らかに、野生の鶴である。白・黒・赤の色彩の美しい親鳥2羽と、まだ羽毛に茶色が目立つ子供2羽の4羽構成だ。
彼らを脅かさないようにと適度に距離を置きながら写真を撮っていると、タクシーの運転手が声をかけてくる。
「走ってみな! そうしたら飛ぶから」
―― 折角のアドバイスだから、従ってみることにした。しかし、子供の飛行能力がまだ拙いからか、一向に飛び立つ気配は無い。私は、彼らが飛ぶ姿を見るのは諦めて、やはりそっとしておくことにした。
途中からは別の一人旅の日本人も合流し、私が次に向かおうとしている黒河の話題などで話が弾んだ。
それにしても、渡り鳥たちが羨ましい。パスポートもビザも無しに、国境を越えることができるのだから。
鶴を間近に見ることができて満足した私は、今度こそ市内への帰途に就いたが、ホテルに戻る前に、卜奎清真寺に寄り道した。
その名前から気が付いた方もあるかと思うが、ここはイスラム教寺院である。シルクロードに属する西安や、国際港であった福建・泉州なら話は分かるが、イスラム圏とはかけ離れたここ黒龍江・チチハルになぜイスラム寺院があるのか ―― そんな好奇心に駆られて、訪れてみた。
しかし、上記の都市の寺院に比べて、この清真寺はイスラムの雰囲気が希薄だ。建物の様式からようやくそれと分かる程度である。
この地になぜイスラム寺院があるのか ―― 私の中ではいまだに謎だ。

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