軽食の屋台やライブのステージで活気を帯びる、11月初頭の早稲田大学。
「早稲田祭」で賑わうキャンパスの一角で、アカデミックな映画上演と講演会が行われていた。
その映画は、「オールド・ドッグ(Old Dog)」。中国共産党に不法占拠されているチベット本土に在住するペマ・ツェテン氏によって撮影された作品だ。
舞台は、アムドと呼ばれるチベット北部(中国に『青海省』と呼ばれている地域)のある場所。そこに暮らす遊牧民のチベット人老人は、中国でもてはやされるようになっていたチベタン・マスティフの老犬を飼っていた。一方、彼の息子はそのチベタン・マスティフを高値で売ろうとする。老人は「犬は遊牧民の命綱」と頑として売ることを拒むが、犬の仲買人も老人にまとわりつき、犬泥棒も出没し、老人は重苦しいプレッシャーに悩まされる。そして彼は…
中国の占拠下で撮影・上映される映画なので露骨には表現できないが、そこに垣間見えるチベット本土の矛盾を、同大学の石濱裕美子教授が上映後、解説して下さった。
- 馬にのる老人 VS バイクに乗る若者
- 高原で遊牧するチベット人 VS 町で教師や公安の職につくチベット人
- ブローカーはチベット犬の値段を相手によって変える。犬の時価は?
→チベット人には最低額を提示=チベット人を二級市民として軽んじている - なぜ町はいつも暗く人気がなく曇天なのか?
→チベット本土の重苦しい、どこにも出口がない状況を暗示 - 老人はなぜタバコを断るのか
→中国においてタバコはコミュニケーションツール。それを断るということは、中国人とのコミュニケーションを拒んでいるということ - 老人の息子はどちら側の人か?
→両者の境界の人 - 不妊のチベット人
→チベット人に対しては意図的な不妊治療が往々にして行われている(チベット民族を絶やすため?) - テレビから流れる貴金属の宣伝
→中国に蔓延する拝金主義 - テレビを見る無気力な視線
- そして・・・マスチフ犬は何を象徴しているのか?
→チベット独自の伝統や生活の終焉
結末はここでは書かないが、とにかく、重苦しく、救いの無い悲しい映画だった。
そして、この重苦しさ、救いの無さ、悲しさこそが、現在のチベット本土を覆っているものなのだ。
いつかDVDが発売されることがあるだろうか。決して明るい映画ではなく、「問題作」とも言える作品だが、その時は上記のようなことを踏まえた上でぜひ見ていただければと考える。
※参考サイト:チベット文学と映画制作の現在「オールド・ドッグ」