こんなことをやっている人もいるんだ、という感想と同時に、こういう問題も起きているんだ、という悲しみを禁じ得ないニュースがあった。
ひと:ミシル千世美さん 薬物依存のチベットの若者支える
http://mainichi.jp/select/opinion/hito/news/20090518k0000m070096000c.html「異国で自分を見失った若者に寄り添いたい」。6000人以上のチベット難民が暮らすインド北部のダラムサラで、薬物依存に陥る難民を支援するNGO「ツァンオ」(チベット語で「川」)を05年に結成した。チベット民族衣装の店を経営し、売上金で依存症の若者が暮らす施設を運営する。これまで約80人から相談を受け、15人を受け入れた。施設には24時間スタッフが常駐。酒、たばこ、単独の外出は禁止。若者たちの話に耳を傾け、共に料理や掃除をし、日常生活の中で自立へと導く。
25歳の時、祖母をがんで亡くした。死について考え始め、西欧へ放浪の旅に出た。29歳で初めて教会に行き、「私があなた方を休ませてあげます」という聖書の言葉に、すべてを受け止めてもらえる気がして、肩の荷が下りた。
01年、教会の活動を通して出会ったインド人のNGO職員(35)と結婚し移住。西欧の援助で建てられた若者の支援センターが、薬物入手の場所になっていることにショックを受け、活動を始めた。
設立後間もなく駆け込んできた男性は、亡命政府発行の難民証明書まで薬物と交換していた。親身に話を聞くうち、若者が次々と相談に訪れるようになった。さまよう人たちの姿は異国を放浪していた昔の自分に重なる。「人生はいつでもやり直しができるということを伝え続けたい」。今日も若者がドアをノックするのを待ち続ける。【黒岩揺光】
【略歴】ミシル千世美(みしる・ちよみ)さん。広島県尾道市出身。夫キンサイさんと2人暮らし。NGOのホームページはhttp://tsangwo.org。45歳。
毎日新聞 2009年5月18日 0時21分
記事の中で紹介されていたNGO「ツァンオ」のサイトを覗いてみた。上記の記事を読むと薬物依存の若者に特化したような印象を受けてしまうが、実際にはドラッグのほかにもアルコール依存症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、HIVなどその他の悪癖・病に悩む人々も受け入れているようである。
こういう支援の仕方もあるのだな――先日の「チベット支援」をテーマとしたシンポジウムを拝聴して以来、どのような形のチベットサポートがあり得るだろうかと考えるようになったところなので、少しばかり感銘のようなものも受けた。
しかし、この記事を読んで真っ先に感じたのは、やはり「悲しさ」だった。
「チベット人のドラッグ問題」――恥ずかしながら殆ど聞いたことのなかった問題だったが、この記事を読む限りでもかなり深刻である。
「西欧の援助で建てられた若者の支援センターが、薬物入手の場所になっている」
「設立後間もなく駆け込んできた男性は、亡命政府発行の難民証明書まで薬物と交換していた」
本当なのか?
祖国を奪われ、抑圧され、厳しい生活を強いられ、祖国を離れることすら余儀なくされている人々である。私たちには想像もよらないストレスを抱えているということはよく理解できる。
しかし、亡命政府発行の難民証明書(ダライ・ラマ法王から直接手渡されたものかもしれない可能性すらある)を手放してまで、というのが信じられなかった。
日本でも薬物依存症やギャンブル依存症のために無理矢理金をつくるという話は聞くが、自由を求めて命がけでヒマラヤを越えて、やっとのことで手にした難民証明書を手放してでも、となると「想像もよらない」ストレスではもはや通用しない。
ここまでのストレスを抱えた人々の心のケアとなると、一筋縄ではいかないだろう。こんな大変なことを異国の地で何年も続けているミシル千世美さんには幾ら敬意を表しても足りない。”ダラムサラのマザー・テレサ”と呼ばせていただきたいほどだ。
それにしても、彼らにこれ程のストレスを植え付けた張本人たちに憤りを禁じ得ない。
思わず、こんな邪推が頭をよぎった。
「まさか、チベット人を廃人にするために当局主導でチベット人に薬物を投与して彼らを薬物依存症にしてはいないだろうな??」
――すみません。あくまで”邪推”です。(今のところそういう証言には接したことが無いので、全くの想像でしかない。やりかねない気はするが)
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