先日書店で見つけたこの本。巻末を見ると、「2009年3月25日 初版発行」となっている。つい最近発売されたばかりだ。
興味深かったので購入して読んでみた。
作者のフレデリック・ルノワール氏はフランス国立社会科学高等研究院客員研究員、『宗教の世界』誌編集長という肩書きを持つフランス人。
同書では、チベット問題に関する28の疑問に対して答える形式をとっている。
Q1 チベットはどこにある?
Q2 この国はいつ、どうやって成立した?
Q3 チベット人と中国人の類似点と相違点は?
Q4 なぜ仏教がチベットのアイデンティティーの核なのか?
Q5 なぜチベット人は一人の僧侶によって統治されてきたか?
Q6 ダライ・ラマ一四世はどんな人?
Q7 伝統的なチベットは農奴制度を持つ封建社会だったのか?
Q8 中国がチベットの領有権を主張している根拠は何か?
Q9 中国にとってのチベットの重要性とは?
Q10 1950年の中国によるチベット侵略の経緯は?
Q11 なぜ国際社会は反応を示さなかったのか?
Q12 中国がチベットにもたらした変化とは?
Q13 なぜ“文化的ジェノサイド”と表現されるのか?
Q14 なぜ2008年3月に反乱が起きたのか?
Q15 中国で自治権拡大や独立を求めている民族は他にあるか?
Q16 チベット危機は中国解体の引き金となるか?
Q17 なぜダライ・ラマはチベットの独立を要求しないのか?
Q18 もっと過激な動きはあるのか?
Q19 ダライ・ラマは退位できるのか?
Q20 誰が後継者となるか?
Q21 ダライ・ラマは生まれ変わるのか?
Q22 中国人はチベット問題や人権についてどう考えているのか?
Q23 中国による圧制の犠牲者は他にあるか?
Q24 中国の経済的成功は民主主義をもたらすか?
Q25 なぜ国際社会はチベット支持を強く打ち出せないのか?
Q26 なぜ欧米世論はチベットの主張に同情的なのか?
Q27 チベットはどうなる?
Q28 何をするべきか?
例えば、封建制と農奴制について。「この点(チベットは、[欧米人が想像するような]融和と社会的平等が確立した国だったのだろうか、それとも社会的にも政治的にもきわめて閉塞的で封建制に凝り固まった国だったのだろうか、という疑問)については、中国当局の主張が正しい」と、総論ではかつてのチベットに封建制が存在したことそのものは認めている。この点については、チベット人の中には異論を唱える者もいることだろう。
一方、農奴の待遇については「領主が豊かな生活を享受するためには、農奴にできるだけ快適な暮らしを保証してやらなければならなかった」「大貴族や僧院を除けば、事実上領主と農奴との間には一種の連帯感があった」としており、苛烈な農奴制を主張する中国当局とは意見を異にしている。
また、中国の侵略による犠牲者について、チベット亡命政府が概算する120万人という人数のほか、イギリスの歴史家などが推定した「50万人から60万人の間」という説も併記しつつ、「だがこの数字でさえもぞっとさせられる」としている。
このように、中国側にもチベット側にも偏らない極めて客観的な観点から論証を進めているが、結果としては(当然のことながら)中国のチベット支配を非難する内容になっている。
つまり、極めて中立的な目で見て、中国のチベット併合が侵略でありその支配が抑圧であるということは客観的な事実であるということを同書はあらためて明らかにしているのだ。
上記のような客観性と、文章の分かり易さと、掲げられた28の問題がいずれもチベット問題を考える上で欠かせない基本的なものであることから、チベット問題を知るための1冊目としてお勧めできる一書である。