ジャカルタ-5 ~側溝
ファタヒラ広場わきの通り
ファタヒラ広場に戻った頃には既に陽が陰り始めていた。しかし、若者たちの賑わいはまだまだ陰りを見せていない。
広場わきの通りの屋台で遅めの昼食を頂いていると、横から若者たちがギターを弾きながら歌っているのが聞こえてきた。しかし、歌はまだいいとして、ギターのチューニングがいい加減でかなり耳障りだ。
「貸してみな!」
1曲歌い終わったタイミングで私がそのギターのチューニングをし直してやると、彼らは嬉しそうにしてまた歌い始めた。
宿のあるジャラン・ジャクサに戻って夕食を済ませると、辺りはすっかり暗くなっていた。
そんな中、カメラのプレビュー画面を見ながら道を歩いたのが間違いの元だった。
宿の敷地に入るまで文字通りあと一歩だったその時 ―― その“一歩”は地面を踏みしめることなく、蓋のされていない側溝へと落ちていった。
「痛ェェェェェェーーーー!!」
当然のように、私はバランスを失い、道端に倒れていた。
“事件”現場が宿のすぐ前だったのが不幸中の幸いだった。やっとのことで起き上った私は部屋に戻って側溝 ―― と言うよりは完全に"ドブ"だった ―― の泥で汚れた脚を洗い、傷口を消毒し、靴や衣服を洗濯した。
しかし…
私の記憶に間違いが無ければ、ここは確か、首都のど真ん中だったはずだ。
ドブに足を突っ込むなどという、日本なら今時田舎でしかあり得ないような失態を首都のど真ん中でやらかしてしまったというのは、ある意味貴重な経験だったかもしれない。
傷は大したことはない。
衣服も替えがある。
問題は一足しかない靴である。
明日の朝には帰国の途に就かなければならない。それまでに乾いてくれるだろうか。
2010年5月5日
幸い、靴は靴下を履けば気にならない程にまで乾いてくれた。私は宿を出てガンビル駅まで歩き、そこからエアポートバスで空港へと向かった。
華やかなビルディングとスラムが混在するジャカルタ
ハイウェイから車窓の外にを見ると、昨日ジャカルタ入りした時と同じように、遠目には華やかなビルディング、手前にはスラムと、対極的な二者が混在した光景が目に飛び込んでくる。
ふと、昨日スラムで会った子どもたちのことが思い出された。無邪気で明るい笑顔の裏に垣間見えた貧困の苦しみ ―― この国の発展の恩恵が彼らにももたらされることを願ってやまない。
9時20分。ジャワ様式を採り入れた独特な雰囲気のスカルノハッタ国際空港を離陸し、インドネシアを離れてまずは経由地のシンガポールへと向かう。
インドネシアは想像以上にいい旅先だった。
辛うじて残っていた仏教繁栄の痕跡…
その仏教とヒンドゥー教の共存・融合…
何より人の良さ、温かさ…
殆どボロブドゥールだけが目当てで訪れた国だったが、気が付けば私のお気に入りの国に仲間入りしていた。
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