ジャカルタ-4 ~海とスラム
とにかく、北を目指せば海はある ―― 私はそう考えて、最後の大通りを渡って北の集落へと足を踏み入れた。
初めのうちは細いながらもアスファルトで舗装された道の両側に小さいながらも割ときちんとした民家が建ち並ぶエリアを歩く。
橋から見えた光景
暫くすると細い川に掛けられた橋に行き当たる。その橋から北を見ると…
細い川はそこで終わっていて、その先は大きな水面が横たわっており、少し先の沖には船が何台も停泊していた。
間違いなく、港である。船に遮られてその向こうは見えないが、恐らくジャワ海の海原が広がっているに違いない ―― そう考えた私は、
[この海もまた、日本に繋がっているのだ…]
と、いつもの感慨に浸るのだった。
しかし、どうせなら大海原を見てみたい。私は更に、橋の向こうに大海原の見えるポイントを求めて歩き出した。
橋の向こうにあったのは ―― 反対側とは打って変わってみすぼらしい集落だった。道はコンクリートむき出しで、民家は今にも崩れ落ちそうな粗末なものばかり。実際に既に建物が取り壊されてしまい、瓦礫の山になってしまった空き地もある。
―― スラム…
ジャカルタ入りした時に列車の窓の外に見えた貧民街が、ここにもあったのだ。
入り込んだ集落はスラムになっていた
スラムの純粋な子どもたち
しかし、人々は素朴で純粋だ。子どもたちは私がカメラをぶら下げているのを見ると「Photo、Photo!」と言って集まってくるし、親御さんも私に「写真撮ってあげてよ」と言ってくる。
そして、私が何を求めてここへ足を踏み入れたのか分かっているのか、「あっちだよ」と行く先々で教えられる。考えにくいことだが、過去にも海の景色を求めてここに来た外国人がいたのだろうか…。
道行く人々に教えられた通りに進んでみると、確かに水と船が見える場所に行き着いた。しかし、やはり船に阻まれてか、大海原を見ることはできない。
[そろそろ戻らないと…日が暮れるな]
残念だが、日本へと続く大海原を見ることは時間的にも難しそうである。私はここまでで諦めて、街中へ戻ることに決めた。
今いる場所からできるだけ海から離れない道を辿れば先程の橋まで迷わずに行くことができるだろう ―― その思惑通り、帰り道は誰の案内も受けずに橋まですんなりと到着できた。
橋の上で少し立ち止まっていると、
「おおい! 乗っていくかい?」
と、水面に浮かぶ手漕ぎボートに乗った男性に声を掛けられた。
いや、遠慮しておこう ―― 万が一転覆でもしたらえらいことになるし、「タイ・バンコクのチャオプラヤー川で1人でボートに乗せてもらったら、逃げ場の無い川の真ん中で『金を出せ』と脅迫された」というある日本人の体験談を以前聞いていたので、それが頭をよぎったのである。
「Photo!」と群がって来た子どもたち
橋を渡って集落の出口近くまで歩くと、子どもたちが群がって来た。
「Photo、Photo!」
元気で純粋なその姿に、「お安いご用さ」とカメラのレンズを向けると、9人の子どもたちは塊になって私の方にぐぐっと近づいてくる。
「そんなに近づいたら入らないよ。もうちょっと下がって」
と身振りで言ってみても、興奮していて聞く耳を持たない。幸い、広角撮影のできるレンズだったのでかなりの近さでも全員ファインダーに収めることができた。
[それにしても…スラムの子どもたちって純粋だな]
そう思った次の瞬間だった。彼らはPhotoとは別のものを求めてきた。
「Money、money!」
―― 夢から醒めてしまった思いだった。
願わくば最後まで純粋さを保ってほしかったが ―― 悲しいかな、これがスラムの現実なのだ。
<後日談>
私は、大きな勘違いをしていたことに気が付いた。
私が見たのは、船の停泊場となっている、川と言ってもいい程の細い細い入り江で、船に遮られて見えなかったその向こうは大海原ではなく陸地だったのである。(下の地図参照)
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