煙台、蓬莱 ~神仙の街
2004年9月29日
午前8時半、煙台への高速艇が大連港を出発した。
大連―煙台の船には普通船と高速艇がある。普通船は所要時間約6時間、高速艇は、料金は普通船の2倍近くするが、時間は半分の3時間で済む。中国人の知り合い(自称“体が弱い”女性)が「高速艇は小さくて、よく揺れるので船酔いになりやすい」と言っていたが、実際に乗ってみると大したことはない。以前、香港―マカオ間で乗ったターボ・ジェットと同じ感覚である。実に快適な3時間の船旅だった。
煙台は、山東半島の先端近くに位置する沿海都市だ。無論、内陸に比べれば発展しているのだが、同じ沿海都市でも大連、アモイ、それからこの後行くことになる青島などと比べると、まだまだ田舎である。
煙台での宿は友誼賓館に定めた。シャワー・トイレ付きの部屋で1人90元、無しなら1人40元と、久々の安宿である。ただし、夜の蚊に悩まされた。
まだ午後の時間がまるまる残っていたので、蓬莱閣に行こうと、バスターミナルに出向く。すると、1人の女性が「蓬莱閣?」と尋ねてくる。話を聞くと、蓬莱の八仙過海旅游景区と、この日オープンしたばかりの海底世界(水族館)を、車代80元で回ってくれると言う。
今日オープンしたばかりの所へ行けるのか ―― 私はその言葉に惑わされ、車に乗ってしまった。
往復80元なら、まあいいか ―― と思っていたら、運転手は途中で「片道80元だ。タクシーなら100元かかるので、決して高くはない」と言い出すではないか。しかし、乗りかかった車である。そのまま行くことにしてしまった。
蓬莱は、煙台市の西70kmほどの場所にある、山東半島最北端の海辺の街だ。古くから、ここから先の海の向こうに神が住むとの信仰があり、秦の始皇帝もここを訪れて不老不死の薬を求めたという。その後、道教が盛んになるにつれ、道教の聖地となる。言わばここは「神仙の街」である。
蓬莱の八仙過海旅游景区
この日オープンしたばかりという水族館は、ショーなどもあり、確かに面白かった。ただし、一人で来ては面白さも半減する場所である。普段、一人旅をしていても「一人ではつまらない」などと思ったことはこれまで無かったのだが、ここはやはり、家族や恋人と来るべき所である。
その後、八仙過海旅游景区を訪れる。ここはその名の通り、この向こうに八仙(8人の神仙)がいると信じられた風景を楽しむことができるポイントであり、館内では数多くの神仙の像も展示されている。
しかし、見るからに最近建てられたものであり、歴史的価値は無い。歴史の色が豊かなのは、ここからやや遠くに見える道教の聖地・蓬莱閣の方なのだが、既に陽が西に傾いており、あそこを訪れている時間は無い。
蓬莱閣
ふと見ると、蓬莱閣の近くを巡る遊覧モーターボートがある。これを使って、海上から見ることで間に合わせることにした。
空はかなりオレンジ色に染まってきている。旅游景区を出たところで、煙台への帰途に就いた。
帰りの車では、運転手と友好的な雰囲気で中国語会話を楽しむ。しかし、話題の大部分が収入の事であったのには少々辟易とさせられた。
車が友誼賓館に到着したところで、精算である。ところが運転手は「200元だ」と言い張る。さっきの話では、往復で160元ではなかったのか? 私が文句を言うと「あんたが観光していた間の待ち時間代40元プラスだ」と言うではないか。
―― 友好的な雰囲気はそこで終わった。私は憤然として「聞いていない」と言ったが、彼は「言った」と言い張る。160元だけ払って車を下りようかとも考えたが、60元という零銭が無い。100元札2枚を出すしかなかった。彼の「謝謝」という言葉に耳もくれず、私は車を下りて、ドアを力いっぱい閉じた。
油断していた。今日オープンしたばかりの所へ行けるという言葉に惑わされ、最初の値段交渉を甘いままで終わらせた、私のミスである。最近こういう目に遭っていなかったものだから、『客引きを見たら泥棒と思え』という中国旅行の鉄則をすっかり忘れていた。
自分の懐を痛めたことよりも、詐欺の懐を温めたことの方が悔しかった。