世界への旅(旅行記)
> 中国・雲南、貴州
黄果樹 ~アジア最大の瀧
2002年2月5日
実のところ、貴陽が退屈な街であることはある程度予想していた。それでもここに来たのは、黄果樹瀑布を訪れたかったからにほかならない。
黄果樹は貴陽から西南西に100km程離れた安順市の、さらに南西50kmの郊外に位置する、アジア最大の瀧だ。貴陽・安順いずれからも直行バスが出ている。
ミャオ族塞の入り口
私もこの日早朝、貴陽駅前のバスターミナルからバスに乗り、黄果樹を目指した。
貴陽から黄果樹までは高速道路が通じている。しかし、バスは途中で高速を降り、霧の中、一般道を進み始めた。やがて、車が止まったかと思うと、車掌の女性が私に声をかけてきた。
「あなた、観光に行くんでしょう? それならあそこに観光ツアーのバスがあるから、それに乗り換えてください」
私は自分のペースで回れないツアーが余り好きではないのだが、半ば強制的にツアーバスに移されてしまった。
ツアー客たちはミャオ(苗)族の村で、民族舞踊を観賞しているところだった。チケットが必要なこと、間もなく出し物が終わるということから、私は入り口から少しだけ覗くにとどめたが、思いがけないところで雲南同様の“非漢民族の地”という貴州の顔を見ることができた。
いざ出発。しかし、途中の安順市で特に見たくもない装飾品の土産店に長々と留まったり、昼食タイムがやたらと長かったりで、やっとのことで黄果樹にたどり着いたのは、昼過ぎになった。
黄果樹瀑布。水しぶきの激しさに虹もかかる
入場して程なく、黄果樹瀑布が見えてきた。遠目に見ても、その大きさは分かる。高さ的には、あの位の瀧は日本でも那智の瀧などを見たことがある。しかし、黄果樹をアジア最大の瀧たらしめているのは、その幅の広さと水量の多さだ。高さ74メートル、幅81メートル ―― 幅の方が長い大瀑布など、私はこれまで見たことがない。水しぶきの激しさに、瀧壷近くには虹がかかっている。
(早く間近で見たい…)
遊客たちの思いは同じだ。私たちは川辺へと下りていった。そんな中、中国人の若いカップルが私に親しく声をかけてきた。彼らは広州から来た大学生だという。お互い一眼レフのカメラを持っていたことから、写真を撮り合ったりして親交を深めていった。
遠目に見てもその壮大さが手にとるように分かる黄果樹瀑布だが、近くに寄って見上げてみると、その迫力は格別だ。見た目もさることながら、ゴーッという轟音も、さながら大地のうなり声といったところだ。
この瀑布の楽しみ方は、表から見るだけではない。水のカーテンの裏には、
瀧の裏側の水簾洞
その名の通り水簾洞と呼ばれる遊歩道があり、別の角度から水の落下ぶりを観賞することができる。通路は狭く、暗く、滑りやすいが、岩の裂け目から見える光景は一見の価値ありだ。
一通り参観を終えて、先程から一緒に行動しているカップルと休憩がてら歓談する。話はいつしか、日本のテレビドラマのことで盛り上がっていた。中国暮らしも1年になって既によく分かっていたのだが、ここ中国でも日本のドラマはかなりの人気を得ている。男子学生の方が、恋人に熱心にドラマの内容について説明する。
「このドラマの主人公は空中小姐(客室乗務員)なんだけど、貧乏が嫌いで、金持ちの男と結婚したがってるんだ。でも、彼女のことを好きな男は、本来は数学の天才なんだけれど、数学をやめてしまって貧乏暮らしをしている…」
日本人の私ですらつい最近知ったばかりのドラマの内容を、驚くほどよく熟知している。
黄果樹の近くには、天星橋という景勝地もある。「ここを訪れたい」というツアー客もいたが、時間の都合でそのまま貴陽に戻ることになった。
去り際、今一度黄果樹の瀧を振り返ってみる。“アジア最大の瀧”は確かに雄大だが、この中国の大地にあっては、それすら自然の織り成した偶然の1つに過ぎないのかもしれない。人間たちがそんな呼称をつけて騒いでいるのを尻目に、瀧はわれ関せずといった表情で、相変わらずのペースで水を落とし続けていた。
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