チベット亡命政府の立場
2008年11月、亡命政府のあるインド・ダラムサラで世界各地のチベット人亡命者の代表者を集めて特別総会が開かれてチベット問題の今後の運動方針が話し合われ、従来からの「中道路線」を継続することが確認されました。
「中道路線」とは何かを軸に、亡命政府の運動に対する立場をここで簡単に纏めます。
チベット人の運動に対する姿勢は、大まかに以下のように分類することができます。
■中道路線
中華人民共和国という枠組みのなかで真の自治(高度な自治)を得、チベット人と中国人が同格に共存する道を求めようとする穏健な立場。ここ30年来のダライ・ラマ法王及び亡命政府の基本姿勢(亡命当初は独立を主張していたが1979年までに路線転換)。
■民族自決路線
独立か否かを国民投票によって決めようという立場。
■独立路線
中華人民共和国という枠組みから脱し、完全な独立を求める立場。
冒頭で述べた通り、2008年11月の特別総会では「中道路線」の継続が確認されました。
では、「中道路線」の立場とは? 上記の説明だけでは余りに足りないのでもう少し詳しい内容を紹介します。
中道路線とは?
- 中央チベット行政府は、チベットの独立を求めることなしに、旧来のチベットの三地域をチベットとする政治的独立体の構築の実現に努める
- そのような政治的独立体においては、真の国家地方自治の資格が享受されなければならない
- その自治は、民主的なプロセスを経て一般投票で選ばれた議会・行政部により統治されなければならず、独立した司法制度が有されなければならない
- 上記の体系が中国政府に合意され次第、チベットは中国からの分離独立を模索する道を断ち、中華人民共和国という枠組みの範囲内に留まるものとする
- チベットが平和と非暴力の地域に変わるまでは、中国政府は防衛のために制限範囲内の軍隊をチベットにおくことができるものとする
- 中華人民共和国の中央省庁はチベットの国際関係および防衛に関する責任を有するが、宗教・文化、教育、経済、健康、生態・環境保護に関するその他すべての問題はチベット人が責任管理するものとする
- 中国政府はチベットにおける人権侵害的政策および中国人のチベット地域流入政策を中止しなければならない
- チベット問題の解決に向けて中国政府と真摯に交渉・和解を遂げる主責任は、ダライ・ラマ法王に帰する
[注]旧来のチベットの三地域・・・ウ・ツァン、アムド、カムのこと(詳細はこちら)
- 法王こそがチベット内外の政治・宗教の両面での最高指導者であり、チベット内外の合法的な真の政府は亡命チベット政府以外の他の何ものでもない。
- 中道、独立、民族自決等といったチベット人の訴求方針が如何なるものであろうとも、その目的実現手段は、一貫して非暴力による平和的手段のみを継続採用すべきである。
- 抑圧政策・法王ならびに亡命チベット政府への誹謗中傷・“愛国愛教”運動の中止を求める。
- 無神論を唱える中国政府からの、政治的必要性による仏教への介入については、一切認められない。
- チベット人の訴求点は、チベット人の権利ならびに中国政府によるチベットに対する誤った政策に対する抗議運動なのであって、中国人民に対する抗議活動や報復活動ではない。
(『ダライ・ラマ法王 日本代表部事務所>亡命チベット人憲章第59条の下に招集された第一回特別総会における合意書』より編集)
「独立は求めない」「個々の中国人は敵視しない」との最大限の譲歩をしながら、最低限主張すべきところは毅然として主張する内容となっています。
最大のポイントは、「独立は求めない」「非暴力」という点です。この考え方は「チベットの独立を回復するという方針ではなく、チベットのみならず中国にも互恵がもたらされるアプローチに転換したほうがより有益である」というダライ・ラマ法王の方針転換に由来します。
また、「中国人民に対する抗議や報復」はしないという点も着目すべきでしょう。「チベット人と中国人の共存について検討することはチベット人の政治的権限を求める以上に重要な現実問題」「《民族の平等性》の真の意味とは、人口、経済力、軍事力に関係なくあらゆる民族が同格に共存できること、ある民族のみが優れその他は劣っているというような差別がない」(以上、『中道のアプローチ:チベット問題解決に向けての骨子』より)という考え方に基づき、双方に遺恨を残さない道を模索しているのです。
言うは易く、行うは難いことです。しかし、ダライ・ラマ14世の「自分の心を持続的に調査・観察してバランスを取り、愛と慈悲の心で怒りや憎しみを和らげなさい」という教えがあれば、実現は可能でしょう。
総合すれば、中国共産党当局の「ダライ・ラマ一派は国家を分裂させようとしている」という主張とは全く逆で、「中国人との共存の中で平和的に自由・人権・平等を勝ち取る」ことを目指した姿勢である、ということになります。
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