チベット問題を扱った映画「ルンタ」が本日初日公演。中国共産党の抑圧に対する焼身抗議が相次ぐチベットの原状を、インド・ダラムサラでチベット支援活動を続けている中原一博さん(私もダラムサラに行った時お世話になった方だ)の視点で追うドキュメンタリー映画だ。監督の池谷薫さんと中原さんが舞台挨拶を行うということで、私も東京・渋谷に駆けつけて鑑賞させていだだいた。
私が行ったのは14時45分からの2回目の上映だったが、入場時に並んでいると1回目の舞台挨拶を終えて外に出てきていた中原さんと4年ぶりに再会。ちょいワルで豪快なキャラクターは健在だった。
映画は、中原さんがチベット人焼身抗議の現場写真をインターネットで見ているところから始まり、中原さんによる焼身抗議をしたチベット人の身近な人物や中国共産党の支配に抵抗した「政治犯」として拘束された経験のある人物などへのインタビュー、ダラムサラにおける人々の抗議の様子、中原さんによる焼身抗議の現場巡り、焼身抗議をした人々の遺言などで構成されていた。劇中、私が2011年に訪れた場所に100人を超える焼身抗議者の遺影が飾られてるのを見た時などは胸が痛くなる思いだった。
実は、この「焼身抗議」、チベット問題をサイトで扱っている私だが、どうしてもコメントすることができなかった部分だった。なぜなら、
[チベットの人々がそこまで追い詰められている、もう他に抗議の手立てがないというのは理解できる。しかし、その生命の使い方は正しいのか? もっと有効な生命の使い方は無いのか?]
という疑問が常にまとわりついていたからである。
その疑問に今回の映画は答えてくれるか――期待を胸にスクリーンに目を注いだ。
そして、その疑問に対するヒントは随所に見ることができた。
「焼身は、他に害をなさず、自分だけを犠牲に実現できることが可能」
「自分の苦しみを、他人が受けないように」
「一切衆生の幸せのために、私は自らを犠牲にする」
――仏教国と言われている私たち日本の国民の想像を遥かに超える仏教の信念が、そこにはあったのだ。
また、映画では明言されていなかったが、彼らが「輪廻」を真剣に信じていることも、彼らが「命を灯心にする」ことを厭わなかった理由の一つではなかったかと、私は勝手に想像した。
命を大切にして、生きることで闘うことの方が正しいに決まっている、という気持ちは、今も変わらない。しかし、「焼身抗議」に懐疑的だった私にもようやく、彼らがそこに至った心境が少しだけ、この映画で理解できるようになったように思う。
映画の終了後、池谷さんと中原さんの舞台挨拶。中原さんは、ご自身がチベット支援に関わるようになるに至った経緯などを話してくれた。
また、池谷さんは、
「チベットの映画を作りたいとずっと思っていたが、難しかった。自分たちの身の危険は覚悟の上だが、インタビューに答えてくれたチベット人に危害が加わることが一番怖かった」
「今日本でも安保法案の件などあるが、チベット人の『非暴力』に何かのヒントがあるのではないか」
といったことも話していた。
チベットの人々を焼身に追い込んでいるのは何か、何故彼らは「焼身」という行為に走るのか――そんな疑問に対するヒントを、この映画は提示してくれることでしょう。
「ルンタ」は東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムにて上映中。ぜひ足をお運びになって、チベット問題について一緒に考えましょう。