NHK BS-1 「きょうの世界」でチベットの特集が組まれました。
(以下、青字字下げは放送の内容。黒字は私の所感もしくは注釈)
テーマは、「”暴動”の街はいま」。
冒頭で述べられた要点は、
取材班が見たものは、抗議行動の再発を許さないものものしい街の雰囲気でした。中国政府は今、ダライ・ラマ14世がインドに亡命するきっかけとなった1959年のチベット動乱から50周年という節目をとらえて、チベット政策の正当性を訴えるキャンペーンを展開しています。国営テレビは連日特集を組み、チベット社会の平和と発展を強調しています。
しかし、私たちが見たのは新年を祝う行事もなく静かに祈りを捧げる人々の姿、そして、禁止されているはずのダライ・ラマの写真・・・。
というものでした。
まず映し出されたのは、”甘粛省”サンチュ(中国名夏河)。
ラプラン寺で有名な観光の街はその華やかさを失い、重苦しい雰囲気に包まれていました。
私の後ろの警察署。当時窓ガラスが破損していましたが、今は元通りとなり、暴動の跡は残っていません。(油井秀樹記者)
一見平穏を取り戻したかのように見えますが、元々観光地だったこの場所に、今観光客の姿はありません。
地元民「去年の暴動が原因で人が来なくなった。再び事件が起こるのを恐れているのだ」
街には武装警察の姿が目立ち始め、昼夜を問わずパトロールしていました。特に外国人への警戒は厳しく、外国の報道機関の中には強制的に退去させられた取材陣もいます。
この周辺では最近、チベット族による騒動が再び発生したということです。
連日、武装警察の部隊が続々と到着し、警戒態勢が徐々に強められています。
日々強化される警備にチベット族の住民からは不満の声が聞かれました。
チベット族の住民「この周辺以外は自由に移動できない。移動には証明書や許可書が必要だ」
チベット族の住民「漢民族に比べて、我々チベット族は徹底的に調べられますよ」
漢族の住民「チベット族が多くの警官のために自由に動けないのは当然だ。あいつらは独立派だ。こうなるのは仕方のないことだ」
次に”四川省”カンゼ。
チベット暦大晦日の街は閑散としていて、正月気分は皆無。伝わってくるのは緊張感ばかりです。
去年の暴動の際、多くのチベット族の住民が警察当局に拘束されました。
中心部に向かう途中、50台以上の武装警察のトラックが往来するなど、ここでも厳重な警戒が行われていることを窺わせます。
先週25日は、チベット族の暦で正月でした。
チベット暦の大晦日。新年を迎えるような華やかさは感じられませんでした。チベット寺院を訪れると、300人以上の人々が集まり、僧侶の読経を聞きながら静かに祈りをささげていました。
正月。民族舞踊や爆竹といった新年を祝う行事は見られませんでした。住民は暴動の犠牲者を悼み、正月を祝わないのだと話していました。
チベット人「祝いの品は買いません。みな正月を祝いたくないのです」
自治州の中心部に位置する街では去年、チベット仏教の僧侶200人余りが警察と衝突、1人が死亡したと伝えられています。
チベット寺院には、祈りをささげる住民の姿がありました。
奥の祭壇には――中国政府が暴動の中心人物だと非難するダライ・ラマ14世の写真がありました。中国では禁じられている危険な行為です。僧侶「当局には既に目をつけられています」
街には、至る所に監視カメラが設けられていました。
監視する当局と、無言の抗議を続ける住民・・・。
去年3月の暴動から、間もなく1年。緊張した状態が続いています。
油井記者によると
中国政府はチベット族がいつ暴動を起こしてもおかしくないと考えているようで、警察や武装警察の取り締まりも厳しく、緊迫感を感じました。
「いつ暴動を起こしてもおかしくない」と考えているのなら、その理由を謙虚に考えて、不満を解消する方向にもっていくべきである。それをせずに力で抑え込もうとするなど、独裁国家のやり方に他ならない。
中でもびっくりしたのは、夜11時すぎ、ホテルで寝ていたんですが、突然部屋の扉を「バン!バン!」と叩いて「ドアを開けろ」と怒鳴りつける声で目が覚め、ドアを開けてみると警察官3人が立っていて、私のパスポートを確認したうえで、部屋の中に不審な人物や物が無いか調べて、隣の部屋に移って行ったんです。
チベットの人たちの中国政府に対する反発は根強いということを感じました。というのも、チベットの人たちの多くが今でも中国が非難するダライ・ラマ14世の写真を大事に隠し持っているなど、ダライ・ラマに対する尊敬の念を抱く人たちが多かったからです。
中国政府は「ダライ・ラマ14世は悪い人物だ」と宣伝してこうしたチベットの人たちをダライ・ラマの側から引き離そうとしていますが、こうしたやり方が却ってチベットの人たちの反発を強める結果となっているようです。
次に、中国の見苦しいプロパガンダ攻勢に関するレポートです。
中国政府はチベット族が住む地域への警戒を強める一方で、チベット統治の正当性をアピールするなど、さまざまな宣伝活動を活発化させています。
(北京での”チベット解放”50年展覧会の映像)
多くの写真と資料を展示し、中国政府は50年前の動乱を鎮圧し、「チベット社会を封建社会から解放した」としています。
1年前のチベット暴動については、ダライ・ラマ14世のグループが起こしたものだとして、中国政府は適切な対応をとったと強調しています。
(映画『チベットの今と昔』の映像。”昔”の様子として悲惨な様子を映し出していたが、私には全てが『チベットの今』であるように感じられてならなかった)
映画は、チベットの人たちの生活が中国共産党の統治の下で豊かになったと伝えています。
中国人A「有意義です。映画の前の10分くらいだけど多くを学べます」
中国人B「チベットの今と昔を比べると全然違い、その差は大きいです」
全く差は大きい。チベット仏教を信仰しながら平和に暮らしていたのが、経済発展の美名の下で抑圧・弾圧の地獄に引きずりこまれたのだから。
中央テレビも連日、チベットの経済発展と市民の生活を伝えています。
(中央テレビの、チベット暦正月の祝いの様子を伝えるプロパガンダ映像)
中央テレビは、チベットが民主化したという特別番組を放送するとしています。
再び、油井記者との中継。
アナウンサー:中国政府がチベットの経済成長ばかりを強調する宣伝活動を活発化させている狙いはどんなところにあるのでしょうか。
油井記者:暴動から1年になるのを前に、ダライ・ラマ14世を支持する動きが国内で広がらないよう封じ込める狙いがあります。
チベット族に対して、この50年の経済発展をアピールして、物質的な豊かさをもたらした存在として、中国共産党政権への支持を得ようという訳です。アナウンサー:チベット問題に対しては国際社会が非常に厳しい目を向けている訳ですが、中国政府はどのように対応しようとしているのでしょうか。
油井記者:チベット問題では決して妥協しないという姿勢をとり続けるものとみられます。確かに中国は、国際社会の批判を気にはしています。しかし、その批判が中国にとって経済発展を妨げる障害とならない限り、方針が変わる気配は見られません。むしろ中国は、その経済力を使って、報復措置を取ることがあります(温家宝訪欧の際のフランスパッシングやクリントン米国務長官が訪中時に人権問題で厳しい態度をとれなかったことを挙げる)。
中国政府は、国際社会の批判がどれだけ強まるかを気にしながらも、チベット問題には今後も強気の姿勢で臨む構えとみられ、問題の解決は極めて困難な見通しです。
以上。
NHKらしい、抑制のきいた公平な特集でした。
チベット人の本音と中国政府のプロパガンダのギャップが浮き彫りになる内容だったかと思います。
油井さんの「チベットの人たち」という言い方にも、チベット人に対する思いやりが感じられました。
欲を言えば、「経済成長ばかりを強調する」ことの何が問題なのか、経済成長の裏で行われていることなどをもう少し突っ込んでくれたら言うことなかったのですが、限られた時間の中での特集なので、仕方がないかもしれませんね・・・。
特に、危険を冒しながらダライ・ラマ法王の写真を掲げている寺院の様子に、胸が痛くなりました。チベット人の法王への信頼・敬意、信仰の強さ、意志の強さが窺えた思いです。
<追記>
youtubeにアップされましたので、以下に貼っておきます。
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