メテオラ・1 ~岩上の修道院
トレッキングコースを抜け出た地点の舗装道路を右側に向かう方向には、杭のように地面から生え出るが如く聳え立つ細長い岩山があった。この一帯にはそうした岩山が幾つも見られるという点で、ベトナムのハロン湾や大陸中国に似ていなくもないが、それらが滑らかで女性的な印象を受けるのに比べ、メテオラの岩山はゴツゴツとしていて男性的・野性的だ。
岩山の上に建つアギア・トリナダ修道院
しかし、ここでの主役は岩山ではない。主役は、その上に建つ修道院である。目の前に見える岩の上にも、アギア・トリナダ修道院がある。
恐らくは俗世から距離を置くためではあろうが、誰が、何を考えてこんな場所に建てたのだろう、という思いを禁じ得ない。思わず想像してしまったのは、雲を突くような巨人が岩の上に、積み木を載せるが如くちょこんと修道院を載せている、という情景だった。
早速上ってみたかったが、岩の壁面に急な階段が見える。心臓破りのトレッキングコースを歩いてきたばかりとあって、今からあそこまで上るということを心も体も拒絶した。まずはゆったりとした道を歩きながらメテオラの光景を楽しむことにしよう。
メテオラの修道院の中で一番南にあるアギオス・ステファノス修道院を目指して歩く。幹線道路に出る途中、1人の日本人女性とすれ違い、声をかけられた。
「こんにちは。日本からですか?」
「はい。さっきアテネから列車でここまで来て、1泊してメテオラを巡る予定です」
「あ!私もその列車で来たんですよ。でも、私は時間が無いので、タクシーをチャーターして急ぎ足で回って、今日の夕方の列車でアテネに戻るのですよ」
そう。そのやり方なら確かにアテネから日帰りでメテオラを訪れることも可能なのだ。しかし、それでは余りにせわしない。やはりメテオラは、最低でもまる1日かけてじっくりと巡りたい場所である。
"梯子の下"から見たアギオス・ステファノス修道院
幹線道路に出てしばらく進むと、1か所ガードレールの無い場所があり、そこから下に降りる梯子が立て掛けられているのが見えた。
「こっちへおいでよ…」
そう誘う声が聞こえたような気がした。下りてみると案の定、アギオス・ステファノス修道院を見下ろす絶景が見える場所に出た。
修道院の足元はやはり切り立った岩山であり、遥か下に見えるカランバカの町並みは、まさしく“下界”。メテオラの修道院は“天上の修道院”と言っても全く大げさではない。
梯子を上って道路に戻り、修道院に向かう。この修道院は今いる山から極近い場所にあり、階段を上らなくても山から渡された橋を歩けばすぐにアクセスすることができる。いざ中へ ―― と思ったら、中から出て来た修道僧に制止された。
「Close!」
見ると、修道僧や尼さんたちが続々と橋の向こうの門から出て来て車でどこかに去って行き、そして門は目の前で冷たく閉じられてしまった。
どうやら最悪のタイミングで来てしまったらしい。仕方が無い。明日もメテオラを巡る予定なので、時間があればもう一度来てみることにしよう。
ここで、大きなミスを犯していたことに気がついた。ミネラルウォーターを切らしてしまったのである。アギオス・ステファノス修道院の門前には売店らしき施設はあるものの、ここも「Close!」。暫く道沿いを歩いてみたが、何かを売っている気配は全く無い。
[修道院の中に入れば、売店の一つぐらいあるかも…]
私は、先程パスしたアギア・トリナダ修道院へ向かうことにした。
コメント(0)
コメントする