ハニア ~カラフルな地中海の街
バスは海辺を走っていたかと思うと、いつの間にか山の上を走っている。一旦山を下り、イラクリオン同様海辺に「ヴェネツィア時代の要塞」のある街・レシムノのバスターミナルに立ち寄った後は、ひたすら海辺の道を進む。
車窓からの風景
レシムノの「ヴェネツィア時代の要塞」
イラクリオンを出発して2時間45分経った15時15分。クレタ島西部の中心都市であるハニアに到着した。
ハニアもイラクリオン同様、クレタ島を本土と結ぶ港町である。しかし、バスターミナルからは海は全く見えない。私はバスを下りて帰りのバスの時間を確認するや否や、海辺へと足を急がせた。
カラフルなハニアの町並み
ヴェネチアン・ポート
ハニアは、ヴェネツィア共和国に侵略・支配されていた頃の名残りを色濃く残す街だ。その名にヴェネツィアの名残りを残すヴェネチアン・ポートは、やはりイラクリオンのオールド・ハーバー同様、陸の方に凹んだ湾が長い波止場で外海から切り離されるような格好になっている。湾の周囲には城壁の跡があり、当時は海側を波止場で、陸側を城壁で守っていたことが想像できる。
海辺には、赤、黄色、ピンク、水色と、カラフルではあるもののやや彩度を抑え気味なパステル調の建物が軒を並べている。カフェやタベルナも多く、昨日アテネで見たように、カフェ好きなギリシャ人たちでどこも盛況だ。
ヴェネツィア風だけではない。オスマン・トルコに侵略・支配されていた頃の名残りで、ドーム型のモスクも残っている。しかし、残っているのは建物だけ。中はがらんどうで、宗教施設としてはもはや使用されていない。
朝に比べれば晴れ間が広がってきたことも手伝い、地中海の日射しを受けたハニアの町並みは実に明るい色彩で満ちている。明るいとは言っても、先述したように彩度が程良く抑えられているので、けばけばしさは感じられない。そして、空が青くなってきたお陰で、先程イラクリオンで見た時にはグレーがかっていたエーゲ海が、今は深いブルーの海面を私の目の前にたたえている。
これぞ地中海、これぞヨーロッパ ―― ギリシャに来ながらなかなか心底実感できなかった地中海、そしてヨーロッパが、この時ようやく、私の心の深い処まで入りこんできた。
街中には城壁跡も残る
深いブルーのエーゲ海
裏通りに入ってみる。これまで通った細い路地と言えば、インド・バラナシが真っ先に思い出され、直近ではカタール・ドーハの裏通りが思い出されるが、ヨーロッパの路地裏はやはりそれらとは趣が異なる。ヴェネチアン・ポートで見たのと同じようなパステル調の、それでいてどこか伝統的な趣もある家屋が建ち並び、またクラシカルな石造りの壁も時折顔を覗かせ、18世紀か19世紀の町並みかと見まがうほどだ。幅5mほどの路地でもギリシャ人のカフェ好きは変わることなく、狭い路面に並べられたテーブルに大勢の人々が群がって話に花を咲かせている。
ハニアの裏通り
明るい日射しと、明るい街の色彩とが、心までを明るくさせてくれる。無意識のうちに鼻歌でも出てしまいそうなウキウキとした気分になってきた。
―― と、昨日アテネで見かけたフルーツ売りの露店のオヤジのことを思い出した。今の私のウキウキとした気分は、あの歌いながら楽しそうにイチゴを売るオヤジの気分と通じるところがあったのではないだろうか。
テンションは最高潮、日射しも最高潮 ―― ビールでも飲みたくなってきた。少し広めの裏通りにタベルナが何件か並んでいたが、素敵なお姐さんが働いているそのうちの1つに引き込まれるようにして腰を下ろした。
ビールはギリシャオリジナルのミソス(Mythos)ビール、つまみにはカラマリアを頼む。カラマリアというのはイカの唐揚げなのだが、そんなに脂っこくなくカラッと揚がっていて、地中海塩とコショウのシンプルな味付けがビールによく合う。テンションがまた1段階アップした。
ミソスビールとカラマリア
できることならもっと長居したい街だが、イラクリオンで行く場所が無く行き当たりばったりの思い付きでやって来た場所である。明日の夜にはイラクリオンを出発しなければならず、今日イラクリオンでどこにも行けなかった分、明日は急ぎ足でそれらの場所を回らなければならない。
僅か2時間程の訪問だったが、ハニアの雰囲気、地中海の、ヨーロッパの雰囲気は十分満喫できた。私は17時30分のバスでイラクリオンへの帰途に就いた。
来る時と同様、エーゲ海に面した座席で海の景色を眺めながらバスの旅を楽しむ。西の空がほんのりと赤くなってきたので夕陽に染まるエーゲ海の景色を期待したが、残念ながらそこまで赤くはならなかった。
イラクリオンには20時すぎに到着。既に暗くなり始めていたが、メーデーの影響で?昼間は閑散としていた街中は一変して賑やかになっていた。21時を過ぎても、カフェは人が絶える気配が全く無かった。
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