フンザ-7 ~アリアバードから望む雪の山脈
2007年8月15日
雲がかかって幻想的な朝のフンザ
明け方の6時。天気はまたしても雨。しかし、山や谷にかかる雲や霧の景色が何とも幻想的だった。
雨も上がってくれた午前中、カリマバードのゼロポイント周辺の道を当てもなくぶらぶらと歩く。そこから見える山も普段宿などから見ている山と同じものなのだが、違う角度から見るとまた表情が違って見えるものである。
その時だった。
歩いている私の背後で「ガラガラッ」と音がした。振り返ってみると、落石だった。
背筋がぞっとした。あと少し通過するのが遅ければ、私の頭の上に石が降り注いでいたところだった。
人里だと思って少し気が緩んでいたかもしれない。ここだって紛れもなく山なのである。落石などの自然災害がいつ起こるか分からないのだということを肝に銘じながら歩くべきであろう。
午後になると、西の方で朝方の曇り空が嘘のように晴れ上がってくれた。天気に誘われて、西の隣町アリアバードに向かって歩いてみることにした。
カリマバード―アリアバード間の道から見たラカポシ峰
フンザ川の渓谷。奥の方にはディラン峰も見える
先ほどカリマバードのゼロポイント周辺を散歩しただけでも景色の変化を感じたが、街から街へと移動するとその変化は一層顕著となる。アリアバードに近づくにつれ、ラカポシ峰を中心とする雪の白い山脈が少しずつ広いレンジで見えるようになってくる。振り返ってみると、渓谷の向こうにディラン峰が見えるというアングルを楽しむこともできた。
アリアバードの街
カリマバードからアリアバードまで、ちょくちょく立ち止まりながら歩いて1時間50分。道中見えたフンザの眺めは、私を十分に満足させてくれた。
[そろそろ、インドに戻るかな]
元々、パキスタンにはフンザ目的で来たのである。ここに来るまでなかなかすっきりと見ることのできなかったヒマラヤを目で、足で存分に楽しみ、フンザに満足することができた以上、このあたりでいいだろう。この日の正午ごろに親しくしていた日本人や韓国人が東トルキスタンに向けて旅立って行ったことも私をその気にさせた理由の一つかもしれない。「スズキの後ろにへばりつく」とはこんな感じ
カリマバードへは、満員のスズキ(乗り合い軽トラック)の後ろにへばりつくようにして戻る。この体勢、上り坂だと重力に後ろの方へ引っ張られて結構きつかった。
宿に戻った私は、お世話になった人たちに「明日インドへ向けて旅立ちます」と報告した。そんな中、宿の上階にあるインターネットカフェの主人が言う。
「大丈夫かな? ギルギットとラワルピンディの間で土砂崩れがあって通れなくなったって聞いたけれど」
嫌な情報を聞かされた。本当だとしたら、早期の復旧を祈るしかない。
Haider Innの食堂で、フンザ最後の晩餐である。ベジタリアンの西洋人たちが「チキンが入ってる!」と騒ぐ。食生活の違いというのも大変なものだ。
近くの席に座っていた年配の日本人男性と、食事がてら旅談義に花を咲かせる。そんな中、私が南チベットで出合ったある出来事に話が及んだ。
「チベットのシガツェで、長年行きたいと思っていたお寺に入ったとたん、それまでの曇り空がパッと晴れて真っ青な空が顔を出したんです。あの時、無宗教だった私に『神仏は本当にいるかもしれない』という気持ちが芽生えましたね」
すると男性は、
「そうですか。それだけでも旅に出た甲斐があるというものだ」
と言う。
信仰を持つことがいいことなのかそうとは限らないのか ―― その答えすら未だ出ていない私には、それにどう答えればいいか分からなかった。しかし、チベット仏教との再会が私にとって大きな出来事だったのは、ここから先行こうとしている場所を考えただけでも明らかだった。
そして、相変わらずの停電の中、フンザ最後の夜は過ぎていった。
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