フンザ-5 ~ウルタル挑戦・第2回(2)
2007年8月14日
午前10時前。天気が気になっていはいたのだが、ついに雨が降り出した。山歩きには少々辛い雨量になってきたが、既にウルタル氷河まであと少し、という所まで来ている。
私はもう少し頑張って歩いてみることにした。
ウルタル氷河
雨が降り出してから40分ほど歩いたところで、氷河が見えてきた。チベットのミンヨン(ム・ロン、明永)氷河と同じくらいの規模になるだろうか。黒ずんだ巨大な氷塊が山あいを流れるようにへばりついている。いや"流れるように"ではなく、実際に流れているのだが、速度は遅いのでどうしても止まっているようにしか見えない。
できるだけ近づいてみたかったが、雨がどんどん強くなってくる。氷河の向こうに見えるはずのウルタル峰も雲の向こうに隠れてしまっている。
私は氷河を遠目に見ることができる場所に雨やどりに丁度いい岩を見つけ、そこに荷物を隠し、自らも時折岩陰に入りながら、氷河の写真をカメラに収めた。
暫くそこで氷河を見ていたところ、西洋人の20人ほどの団体が通りかかった。
「こんにちは。これからどちらへ?」
その中の1人が挨拶してきた。私はこう答えた。
「これから下山します」
まだ正午を回ってもいないし、現ベースキャンプにも到着していなかったが、氷河も見たことだし、雨で足場が悪くなるのも心配だったので、このへんが潮時だろう、と私は思った。山を登り続ける彼らを見送った後、私はそれとは逆の方向に歩き出した。
途中で雨が小康状態になり、再度振り返って氷河の写真を撮るが、その後はやはり下山を続けた。
既に道が分かっていたので、帰りは行きに比べてかなり気が楽だった。とはいえ、雨が降ったので地盤のゆるい所や岩の上では足元に注意しつつ慎重に歩く。
雲間からウルタルが顔を出した
上りで最大の難所だった岩場を下り切り、崖の上の道に出たところで後ろを振り返ってみた。
氷河の見える場所では雲にかき消されていたウルタル峰がここでようやく、僅かながら顔を出してくれた。
先日、晴れた空の下に見たフンザの雪山に“見守ってくれているような優しさ”を感じていたが、今目の前に見えるウルタル峰には猛々しさすら感じられる。
天候の違いもあるが、自ら登ってその厳しさを体感したことも、同じ山に対する印象を大きく変えた要因だ。
―― 山は生き物である。
天候、時間、見る場所によって表情や機嫌を気まぐれに変化させるのだから ―― それは今回の旅の中、チベットのチョモランマ・ベースキャンプで、ネパールのポカラで山を見続けてきた私の結論だった。
一番高い所から見た“風の谷”
先ほど“滝登り”をした、水路手前の滝を今度は下りる。ここで少し寄り道をして近くの高台に上ってみた。眼下には“風の谷”が横たわっている。
これまでで一番高い所から見る“風の谷” ―― 今まで低い位置からしか見ていなかったフンザ川だったが、両岸の森も含めた谷の全貌を、この時初めて見ることができた。
谷の中で見ていた時よりも、高い所から見て更に確信することができた。ここから見えるのはまさしく、「ナウシカ」の風景である。
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