世界への旅(旅行記)
小三峡 ~美しき支流
2000年9月26日
目が覚めると、船は巫山の街に近づいていた。
いわゆる「三峡」は瞿塘峡・巫峡・西陵峡の3つから構成されているが、私は残念ながら、奉節-巫山間の瞿塘峡をほとんど見ることができなかった。石宝寨に続く不覚だ。
巫山は、長江の支流・大寧河が注ぎ込む地に建てられた街。そして、その大寧河は、小三峡の名で知られる景勝地だ。
私たちは下船すると、バスで小舟の集う船着き場へと連れられた。
三峡ツアーの呼び物の一つ・小三峡クルーズへと出発だ。
小三峡の光景
外国人の多い他の船の団体と相乗りして、私たちは小舟で小三峡に繰り出した。
しかし、小三峡と三峡との決定的な違いは、川幅ばかりではない。 ―― 水の色が蒼いのだ。
確かに長江は雄大で素晴らしい河なのだが、これを「黄河」と呼んでもおかしくない程に土砂で褐色に染まってしまった水面ばかりを見せつけられ続けて、正直なところ少々飽き飽きしていたところだった。まさしく河の水に心を洗われた気持ちだったが、 水面の美しさにはさらに後に感動させられることになる。
それにしても、目を見張るのはやはり、河を挟むようにそびえる崖と言っていい程の険しい岩山だ。所によっては、ほとんど垂直になっている部分もある。
小舟で遊ぶ小三峡 険しさばかりではない。カーテンや、人の顔に見えるような岩肌の凹凸も見られ、自然の神秘さを感じさせてくれる。
しかし、自然の不思議は、この小三峡そのものの存在だ。この小さな河が、岩山をうがってこんな見事な渓谷を創り出すのに、どれだけの年月を費やしたのだろうか。
中国史は、文化・文明ばかりでなく、この大地の自然史まで、ロマンに満ちている。
船は露天が幾つも並んだ、広い河岸に接岸した。
ここから崖の壁面に「蜀の桟道」風の遊歩道があり、大寧河をまたぐ吊り橋へと続いている。その吊り橋から上流に見えるのが、小三峡よりさらに小さい「小小三峡」だ。
先程、小三峡の水の蒼さに心を洗われたが、
小小三峡
この吊り橋から見る小小三峡の水面の美しさは、その比ではなかった。もはや“蒼い”を通り越して“碧”なのだ。
「小三峡は三峡に非ずして、三峡に勝る」という言葉がある。まだ三峡を見ていない私だったが、それでも納得してしまうような、美しさだ。もう少し橋が低かったら、魚が泳いでいる姿まで見えたかもしれない。
舟の出発時間まで、しばしこの光景に見入っていた。
巫山への帰路の途中、昨日知り合った智峰が、岸の壁面を指さしながら言った。
「ほら、あそこに『135M』と書いた札が立っているでしょう。三峡ダムができたら、あそこまで水位が上がってしまうんですよ」
彼が指さした方を見ると、かなり高い位置に、その札が立てられている。そう言えば、この河を渡る橋は、どれもかなりの高さがある。水位が上昇したときのことを考えて建てられたのだろう。
生活の便のためとはいえ、この見事な光景がもうすぐ無くなってしまう・・・。
感動が大きかっただけに、その現実を思い出させられた寂しさは、余計に大きかった。
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