重慶大厦(チョンキンマンション) ~客引きには要注意
2000年4月30日
私が向かった宿は、尖沙咀(チムシャツォイ)の彌敦道(ネイザン・ロード)沿いにある重慶大厦(チョンキンマンション)だ。
重慶大厦
ドラマ版「深夜特急」にも登場した、安宿の集合体で、沢木耕太郎氏に憧れる私は迷わずここに泊まることにしていた。
(残念ながら、沢木氏が実際に利用したという黄金宮殿招待所は、ここにはないようだったが)
しかし、写真で見るに勝るオンボロで、付近には中国人はもちろんのこと、
怪しげなインド人たちもたむろしており、少々緊張しながら、入り口をくぐった。
目指すは、4、5階にあるという重慶招待所。しかし、案の定、客引きたちが寄ってくる。振り切ろうとすると、中国人の客引きが、私の目指す重慶招待所の職員証を見せてきた。
「それならいいか」と、私は彼についていった。
しかし、彼はエレベーターが3階に着いたところで、「ここだ」と言って降りた。
(そうか、イギリス式では4階が3階に当たるんだったな)
この時はまだ、呑気にそんなことを考えていた。
しかし、彼が何度も"No Problem"を繰り返すうちに、それがだんだん"More Problem"に聞こえてくる。
案の定、中に入ってみると、どうも事前に調べた内装とは違う。
部屋の中を見せてもらったが、えらく汚い部屋であり、眺めも悪く、値段も1泊300HK$と相場より高めで、やはり重慶招待所とは違うようだ。
[はめられた!]
(その宿は、後で分かったのだが、台湾賓館という名だった)
少々怒りすら感じて、私はその場を立ち去ろうとしたが、この男のしつこさを振り切るのは、どうやら難しそうだ。交渉の結果、もう少しはきれいだという部屋が4時には空くので、そこを280HK$にするから、それまで待て、という。
台湾賓館(夜に撮影)
―― どうしようか。
さっき見た部屋との角度関係からすると、この部屋はネイザン・ロードに面していて、なかなか面白そうな眺めを見ることができそうだ。しかもあの部屋よりはまだきれいな方だというのだから、20HK$ディスカウントされている分、お得な気がしてきた。
セキュリティー面も、入り口の鍵は管理人と宿泊者以外開けられないようになっているらしい。
それに、宿の入り口の所に貼ってあった、日本人旅行者の手紙…。
「チョンキンマンションは、どこも同じ様なものだろう」
それなら、ここでも構わないか。
ただ、その前に部屋を見ておきたかったのだが、男に「まだ寝ている」と断られた。しかしその時、部屋の中から女性の怪しげな声が聞こえてきた気がした。
(なるほど、『寝ている』というのは、そっちの意味か)
どうやらこの宿も、沢木氏が泊まった黄金宮殿と同様、連れ込み宿的な使われ方もしていたようだ。
しかし、そんな事は、この際もう関係ない。私はチェックインを済ませ、予定の部屋が空く4時まで、最初に通された部屋で待つように言われた。
しかし、現在の時刻は2時 ―― 2時間も待ってはいられない。
私は必要な物をデイパックにまとめ、大きな鞄を部屋に置いて外出することにした。
外に出ると、さっきの客引きの男がいた。
「4時までそのへんを歩いてくる」と私が言うと、男は、「分かった、部屋が空いたら荷物を動かしておくので、戻ってくる時間はいつでもいい」と言い、いったん中に戻って、私に宿の入り口と予定の部屋の鍵を渡してくれた。
私はあらためて、宿から街中へと出発したが、その際にも男は一言、
"No Problem!"
―― 聞けば聞くほど、心配になってくる一言だ。
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