草原と砂漠 ~緑と黄色と
1998年8月29日
翌朝、学生たちのうち2人が二日酔いで起きられず、残る2人と私だけで草原に出かけた。
遠くを見ると、山の上に何か小さなものが建っている。あれは何だろう?
「よし、行ってみよう」
誰からともなく言い出して、その未確認物に向かって草原を歩き始めた。すると、キャンプサイトで飼われているやたらと人懐っこい大型犬が、別にきびだんごか何かをあげた訳でもないのに、私たちのお供を買って出てくれた。
山の上に立つ塚・オボ
近くまでたどり着くと、それは石を積み上げて造った直径10メートルらずの小さな円錐形の塚だった。宗教的なものだろうか。何人もの人々(モンゴル人?)がお参りのようなことをしている。
後で分かったことなのだが、それはオボと呼ばれるもので、モンゴル人の間で信仰されているシャーマニズムのシンボルであり、同時に道標や境界標の役割も果たしているという。思わぬところでモンゴル族の日常・文化に触れることができた。
この日は終日、自由行動。私は昼からの時間を、前日馬で歩いたのと同じ方向へ、今度は自分の足で歩くことにした。
同じ場所を進んでいるはずなのだが、視線の高さが違うせいか、心なしか見える光景が昨日と違う気がする。それに、馬で草原を行くのも遊牧民の気分に浸ることができて面白いが、歩いていると、この大地を、大草原を、自分の足で踏みしめているのだ、ということを感じ取ることができていい。自分が大自然と一体になっているかのような不思議な感覚だ。
夕方からはモンゴル相撲と草競馬、そして酒宴と、前日と同じ時間が繰り返された。
1998年8月30日
宿舎を共にしてきた学生たち、そして別に知り合った日本人学生グループとは、ここからは別行動。私は1人、別のタクシーに乗って草原のキャンプサイトを後にした。
しかし、出発直前に、日本語の堪能なガイドが私に「砂漠を見たくはないか?」と尋ねてくる。このあたりで砂漠と言えば、もちろんゴビ砂漠だ。もちろん、見る機会があるのなら見てみたい。私は別料金を払って、フフホトに戻る前に、更に西に2時間ほど行った所にあるパオトウ近くにある、観光旅行者向けに公開されたゴビ砂漠へ向かうことになった。
南モンゴルの砂漠 その斜面に近づくと、見覚えのある顔がその急斜面を駆け下りてきた。
「あれ、カズさん!」 ―― 結局、先程分かれた学生たちと、同じ場所に来ていたのだった。
斜面を登って黄色い山の上にたどり着くと、そこには一面の黄色い大地が広がっていた。草原の緑と、砂漠の黄色 ―― これほど景観を異にした2つ場所が、これほど広大に広がっている ―― ユーラシアの大地の大きさを、この目で、この心で体感した1日だった。
しかし、背後の斜面を振り返ってみると、そこを子供のようにはしゃぎながら駆け下りていく観光客たちがいる。あたかも、この大自然が巨大な砂場、遊び場扱いされているような気がして、少し興ざめだった。
砂漠からフフホトへ戻る道すがらにも、感動はあった。
タクシーが橋を渡る。川面を見ると、これも一面の黄色だ。これは、もしかして…。
「黄河だ」。運転手が私に語りかけ、車を止めてくれた。
これが黄河か ―― かなり上流なので川幅こそ狭かったものの、私はこの日、三たびユーラシアの大地を体感した。
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