下山
2017年9月9日
6時58分。須走ルートの下山口に入ると、道端の岩壁につららが張っているのが目に入った。夜も明けきらぬ朝に山小屋の外に出た時には寒さに打ち震えたものだが、寒かったはずだ。さあ、下山である。
須走ルートの下山道須走下山ルートの頂上から八合目までは、よく整備されていて、ゴツゴツとした岩も無く、路面の平らかな土の歩きやすい坂道だった。
7時30分、八合目の山小屋「江戸屋」に到着。雲海をバックに看板が立っている場所に辿り着いた。ここでは、赤と黄色に色分けして2つの方向への道案内がされている。赤が須走ルート、黄色が吉田ルートだ。
須走ルートと吉田ルートの分岐点そう。ここまでの道は須走ルートと吉田ルートが共有していたのだ。この先、どっちに行っても下山はできるが、登山口に荷物や車を預けている人は要注意。右は静岡、左は山梨に続いていて、間違えると同じ富士登山口でも左右で全然違う場所に連れて行かされてしまう。
歩きやすい土の坂道はここまで。ここからは細くてゴツゴツした路面が続く。且つ、登山・下山とも同じルートになるが、この時は幸いにも登りの人がそんなに居なかった。
そして、晴れ渡った山頂とは対照的に、視界はだんだん霞がかかってきた。山頂から見えていた雲海に突入したようである。
7時48分、本七合目の山小屋「見晴館」に到着。13分だけ休憩。
本七合目~六合目の山道8時18分、七合目の山小屋「大陽館」に到着。
ここで休んでいると、横から大きな物体が登ってきた。ブルドーザーである。人の脚以外で富士山を登ることができる唯一の乗り物だ。勿論、人を運ぶためのものではなく、山小屋に物資を届けるためのものだ。
富士山を登山できるのは、こうした物や人々によって支えられているからに他ならない。
ブルドーザー8時29分、七合目を出発。
ここで再び、登山道と下山道が分かれる。この先にあるコースが、須走ルート下山最大のお楽しみだ。
砂地の斜面を一気に駆け下りて行く砂走である。
砂走
このルートは
ザッ
ザッ
ザッ
といういい音を立てて勢いよく下るのが気持ちいい。昨年もこの砂走をして既にコツを掴んでいた――はずなのだが、ここのところの雨模様で砂が湿ってしまったのか、はたまた登山シーズンも終盤で今年のこれまでの登山客に踏み固められてしまったのか、どうも砂にサラサラ感が無く、地面が重たく感じられ、なかなかスムーズに滑ってくれない。
勢いよく走っていく若者もいたが、ここでは文字通り「走る」のではなく、砂に足を滑らせて進むのが正解だ。ここで本当に走ってしまうのは転倒・衝突などのリスクが高く、お勧めできない。
そして、この砂走のコースを進むにつれて、周りの景色に変化が出るようになっていた。植生が変わってきたのである。草一つ生えていない頂上から、下りるにつれて次第に背の低い草が見えるようになってきていたが、ここにきて人の背丈を超えるような樹木も見られるようになり、途中には樹木のトンネルを抜ける箇所すらあった。
間違いなく、日常の世界に戻りつつあった。
小高い樹木も生える砂走終盤
砂払五合目の「吉野屋」(この年は既に営業終了)9時11分、砂払五合目に到着。ここにある山小屋「吉野屋」で、何か飲み物でも買って、昨年もお目にかかった看板犬のムサシ君に癒されながら一休み――と思っていたのだが、9月に入って既に営業を終了していたようで、門は固く閉ざされていた。
椅子だけは残されていたので、そこで少しだけ休んで9時22分、出発。
ゴールはもう目の前だ。
ここからは、木々のトンネルを抜けるようにして凸凹した登山道を下っていく。マラソンならこのへんでラストスパートをかける私だが、さすがに登山の疲労は質が違う。目の前にも疲れをあらわに歩く人がいるのに、その人を追い抜くことができない。
「この道でいいんですよね?」
その人が声をかけてきた。彼もまた私同様、単独で富士登山をしていた人で、結構気持ちが寂しくなっていたようだった。その後は彼と話をしながら下山する。よくよく考えると、今回の登山で初めてできた同行者だった。
(その人には下山後、駐車場から御殿場駅まで車に乗せてもらうという素敵なお世話を頂いた)
やがて、古御嶽神社の鳥居が見えてきた。ここまで来れば後はラストスパートだ。
「お先に失礼します!」
先ほど知り合ったばかりの同行者にそう言うと、私はマラソンの時のラスト同様、ペースを一気に上げた。
そして、9時50分。五合目の須走登山口に到着した。
下山完了!
下山完了=登山完了!!
山は下山することが最終目標。2度目にして初めての単独富士登頂を今、達成させることができた。駐車場行きのバスが来るまで一休み。山小屋「菊屋」でうどんと、登山前・登山中には控えていた酒(ビール)で祝杯を上げる。
※
ともあれ、初の富士山単独登山を達成できてホッとした。今回の登山で実感したことは、私以外にも単独登山者が結構多かったこと。勿論、グループでの登山の方が多いのだが、道すがら、そして特に頂上富士館の宿泊客の中には、「お一人様」が結構多かった。
それは恐らく、富士山ほど登山しやすい高峰は無いということもあるかもしれない。確かに日本最高峰で体力は必要だが、登山道は整備されていて、雨風をしのげる宿泊所があってテントも寝袋も必要のない高峰なんて、世界にどれだけあるだろうか? だから意外に、一度経験してしまえば手軽に、そして一人でも、リピートしやすい山なのだ。
来年はいつ、どのルートを登ろうか?
いつかは最難関といわれる御殿場ルートを登りたいな
気持ちは既に、次の富士登山に向いていた。
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