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チベット問題

中国官製「チベットの50年」の嘘(2)

中国共産党がが自らのチベット侵略を正当化する嘘八百な論拠を手短にまとめた人民画報「チベットの50年」は2ページ目に続きます。
(既に削除済み。『Internet Archive Wayback Machine』に残っていた当時のページはこちら。残念ながら一部の写真は残っていない)
ここにもやはり、中国共産党当局の無理のある言い分、チベットへの不理解が数多く見られるので、1ページ目に続いてツッコミを入れていきましょう。


<2ページ目>

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  1. 毎年33万人の農民が科学技術の訓練を受けて、化学肥料の使用、優良種の精選、機械耕作などの技術を身につけた。チベット人民の生活は大幅に改善された。

    中国の侵略以後、漢人の嗜好に合うがチベットの土壌にそぐわない小麦の栽培を強要され、化学肥料を大量に投与されることで、チベットの土壌が破壊されてしまったのが現実である。また遊牧民は、当局が牧草地を囲い込むために収容所さながらの場所に定住を強要させられている。
    都市部も、急速に押し寄せてきた中国人が生産活動を牛耳り、中国語ができないチベット人は生産活動から締め出され、また侵略以来の物価高騰も手伝って、大勢の物乞いが街中に見られる。
  2. 21世紀に入り、全長1963kmに及ぶ世界最高海抜の鉄道がここで建設される。青海省とチベット自治区を貫くこの鉄道は、完成後はチベットから内地に通じる最も便利な陸上ルートになり、これによりチベットの鉄道のない歴史にピリオドが打たれる。

    書かれている内容そのものは間違いない。しかし、この鉄道はチベット人の生活を圧迫する中国人のチベット入植を容易にし、チベットで採れた鉱物資源をチベットの外に持ち出すことを容易にした側面が極めて強い。この鉄道をずばり「侵略鉄道」と切り捨てる著書も出たくらいだ。
  3. この50年間、チベットの経済は絶えず発展し、優秀な伝統文化が受け継がれ、科学教育は絶えず向上し、民族宗教政策は全面的に徹底され、社会は日に日に安定している。

    1. 『優秀な伝統文化が受け継がれ』
      …1959年の騒乱や文化大革命の折、中国はチベットの優秀な伝統文化の結晶であるチベット仏教寺院を大量に破壊している。そして、チベットの優秀な伝統文化であるチベット仏教への信仰を一貫して厳しく制限し、チベット僧への拷問すら行われている。
    2. 『民族宗教政策は全面的に徹底され』
      …「民族宗教政策」が具体的にどのような内容なのかを記していない極めて曖昧な書き方で、これだけでは中国がチベット民族の宗教を手厚く保護しているような誤解を与えかねない。しかし、中国のチベットに対する「民族宗教政策」とは政教一致を否定し、上記のようにチベット仏教を制限・弾圧するものである。
  4. "地球の第3極"に暮らす人々は、自分の願いに従って快適で美しい生活を創造し、民族の団結と国家の統一を守り、チベットの全面的な進歩を促すと同時に、中華民族の繁栄増進に励んでいる。

    信仰の自由や生活権を踏みにじられているチベット人が「自分の願いに従って快適で美しい生活を創造」しているとは到底言えないだろう。

    (以下、写真とそのキャプションについて)

  5. 弁経(経文を唱える)( 写真

    これは経文を唱えているところではなく問答をしているシーン。チベットについていろいろ書いている割にはチベットの伝統文化に対する理解が浅い。
  6. チベットでは、チベット族の人々には信教の自由を持っている。( 写真

    上に書いた通り。チベット仏教の神秘に憧れて来る外国人観光客を呼び寄せようと取り繕っているために表面上は信仰の自由が認められているように見えるが、実際にはチベット仏教を深く学ぶことは認められず、ダライ・ラマ法王の写真を持つことを禁じられるなど信仰の自由を厳しく制限されている。
  7. チベット語で作文の練習をするラサ小学校の生徒( 写真

    チベット人がチベット語で作文の練習をするという当たり前ことが特筆に価するのだろうか。実際のところは、チベットの学校ではむしろ漢語学習が強制されている。
  8. 50年後のチベットはチベット人民の天国に変わった。新鮮な空気と優美な環境のラサは、中国の各省都の中でも最も空気が美しい。( 写真

    (4.の繰り返しになるが)信仰の自由や生活権を踏みにじられている現状を「天国」とは到底言えないだろう。
    それから、侵略後のラサの空気は間違いなく、侵略前より汚染が進んでいる。
  9. 転経(経文の刻まれた筒を回す)をしながら道を歩く( 写真

    マニ車で一番肝心なのは中に経文が入っている点である。また表に刻まれているのは一般的に経文(仏教の経典)ではなく真言(マントラ。仏・菩薩などの真実の言葉)である。ここにもコラム作者のチベット文化と仏教に対する理解の浅さが表れている。
  10. 2000年末現在、自治区全体で401の各種中小型発電所があり、総出力は35.62万kw、発電量は6.61億kwに達している。写真はチベット最大の発電所・ヨウツォヨム湖水汲み上げ式発電所である。( 写真

    こうして巨大な水力発電所を建設することで、ヤムドク湖(羊卓雍湖→ヨウツォヨム湖、とおかしな日本語化がされている)などの水環境は危機にさらされている。また、ヤムドク湖は地元民が神聖視する湖であり、こうした施設を建造することは彼らの産土神に対する冒涜でもある。
  11. ラサの住宅地( 写真

    こういう一部を切り取った写真を掲げているといかにもチベットの町並みが保存されているかのような誤解を生んでしまうが、現在のラサではチベットの伝統家屋が取り壊されて無機質なビルディングが次々と建てられているのが現実である。

以上。

余りに身勝手で独善的。嘘とこじつけが大部分で、誤魔化しきれない部分はスルーされている。
こうした筋の通らない論理による支配は、チベットほかウイグル、南モンゴルの人々を不幸にするのみならず、その他中国に侵略された歴史のあるベトナムや朝鮮半島などにとっても脅威となる。そして中国にとっても、自らを国際社会の非難の的にする不幸を呼び込み、内紛の火種を抱えたままにするだけである。それはアジアの安定という意味からも益があるとは思えない。
中国共産党には、自らの正当化と保身に終始せず、また自らの価値観を絶対化することなく、国際社会の一員として、そして理知的・謙虚な、人としてまともな感覚を持って諸事に当たっていただくことを切に希望する。

(2011年8月13日更新)

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